この恋愛物語は、甘くて苦い20代前半を生き抜いた私の人生を振り返ったものだ。
恋愛は楽しくも苦しくも、切なくもある。
出会わなければ良かったと思うこともあれば、なぜ別れてしまったのか、失いたくなかったと思うこともあるだろう。
今大切な人がそばに居る人、大切な人を失った人、これから大切な人を見つける全ての人に捧げたいと思う。
大切な人と出会った事実は変わらず、その経験は宝物として生涯の財産になっていくのだ。
これだけはどうか忘れないで居て欲しい。
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「mioは今も俺の心の中にずっと居るよ。」
これが、彼と私が交わした最後の会話だった。
chapitre1:彼との出会い
彼と初めて出会ったのは、2010年の夏。
その時、私たちのキューピッドになってくれたのが韓国人のソイ姉さんだった。
彼との恋愛を語るうえで外せないキーパーソン、ソイ姉さんの話から始めたいと思う。
私は留学中のフランスから夏休みで一時帰国し、東京に滞在していた。
地方の実家には帰りたくないほど、東京が大好きだった。
留学前に一年過ごした東京での生活は、幸せそのものだったから。
毎日課題に追われ、寝不足でフラフラの毎日だったけれどそれはそれで楽しかったのだ。
一時帰国中も、毎日専門学校の友達や同じ地元から上京した友達、バイト先の友人知人と遊びほうけていた。
東京に住まいがない私は、仲良しの韓国人の姉さんソイの家に滞在していた。
姉さんは私より3つ年上なだけなのに、韓国の歳にすると5個離れてるからmioはもっと子供だよ!とよく言っていた。
末っ子だから子供扱いには慣れている、ハイハイと聞き流す私。
待ち遠しい夏休みがやってきて、日本へ帰国する当日のこと。
姉さんは、私がしばらく姉さんちに滞在するのを快く引き受けてくれていたけど…
空港からウキウキしながら姉さんの家に行きチャイムを鳴らすも、全く出てこない。
姉さん、相変わらずだな…
そう思って、ひたすらチャイムを鳴らし続け鬼のように電話をしまくる。
たったドア1枚を隔てて、大好きな姉さんが向こう側に居る。
早く会いたいのに!
しばらくすると、眠たそうな姉さんが数分かけてやっとドアを開けた。
寝起きのハスキー声で一言、「…入って」。
久しぶりの再会に今すぐにでも飛びつきたい私を制し、姉さんはゆっくりとタバコに火をつける。
姉さんはいつもそうなんだよね。
もう何か月も会ってないのに、下手したら一年近くも会ってないのに。
どれだけ久しぶりに会っても、「いや、昨日会ったばっかりじゃん..」とでも言わんばかりの顔。
「姉さん、いつも昨日会ったみたいな顔して~」と突っ込むと、「でもそのほうが良いんじゃない?いつも隣にいるようなもんってことじゃん」そう姉さんはタバコをふかしながら笑う。
それを見て私は、「あ~日本帰ってきたなぁ~~~」と大きなあくびをしながら体いっぱいに伸びる。
このやり取りがもうすでに楽しくてウキウキしていた。
姉さんとは、私がまだ東京に居た専門学生1年の頃からの仲だ。
あまり日本語が得意じゃなくて、人付き合いも苦手な姉さんだったけど。
とにかく人に何かを与えるのが好きな人で、一緒に居て心地よかったんだ。
私が年下というのもあるのかもしれないけれど、姉さんは本当に気前が良くてよくおごってくれた。
何でもくれるから、それに対して気分が良いという気持ちもあったけど。
それ以上に人にこんな風に色々なものを与えられる人って、純粋にすごいと尊敬していた。
だけど、姉さんはあまり学校になじめず同じ韓国人ともあまり仲が良くなかった。
人見知りで仲良くなるまでに時間がかかるし、学校もよく休む。
話せば面白くて、リアクションも大きくて力も強いから、男子は特にポカポカよく叩かれていた。
そんな姉さんは、自分のことをあまり話さないので同じクラスの子からは少し不思議な目で見られていたように思う。
羽振りが良いのも、夜の仕事をしているからだ…と悪い噂を裏付けるようなものだった。
それでも、つたない日本語で話しかけてくる姉さんが可愛くて日本語をよく教え、次第に自然に仲良くなっていった。
よく電話もするしご飯も食べに行くし、姉さんちには何度も泊まりに行き同じベットで一緒に眠る仲だ。
私が留学してから、お互いに2年生になりその間も電話でよくやり取りしていた。
でも、姉さんは私が居なくなってからは学校に余計に行かなくなり結局辞めてしまった。
「私がずっと同じ専門に居たら、姉さんはきっと学校は辞めてなかったよな。
いや、私が辞めさせなかったよなぁ。」
そんな風に思いながら、姉さんが新しく入ったという日本に滞在する目的だけの学校の教科書が床に散らばっているのを眺めていた。
ドンドンドンドン!
急に、破れるんじゃないかと思うほど激しくドアが叩かれたのはその時だった。
「ソイさん!居るんですよね?!」外からは、姉さんの名前を呼ぶ男性の声が聞こえた。
慌てて姉さんの方を見ると、姉さんは少しおびえたように首を横に振った。
誰も出てこないとわかると、男性はドアの下の隙間にさっと封筒を挟めそのまま立ち去って行った。
男性がその場を離れたのを確認し、姉さんに「今の何?!」と詰め寄る。
姉さんは、封筒をスッと取りため息をつきながら「多分、家賃のことだと思う」と一言。
「は?!家賃払ってないの?今の借金取りみたいじゃない?怖いんだけど!!」
と矢継ぎ早に言いながら、私はおそらく姉さんが理解できていなかったであろう封筒の中身を見る。
それは、3日以内に1か月分の家賃9万円を入金してほしいという内容の督促状だった。
フゥと一息ついて、何で滞納しているのかを姉さんに聞いてみた。
すると姉さんは、病院に行っていたとか入金がたまたま遅れたとか言い訳を始める。
姉さんはいつもこうだ。
姉さんは支払えなかった理由を言っているつもりなんだろうけど、私にはただの言い訳にしか聞こえない。
「姉さん、家賃は払おうよ。」
それだけ伝えたら、なんだか急に疲れが出てきた。
日本に帰ってきたばかりだしまずは腹ごしらえ…と、寝起きの姉さんと共にご飯を食べることにした。
姉さんはほとんど料理をしないけれど、韓国の実家から送ってもらった韓国料理がよく冷蔵庫に入っていた。
それをおかずに、近況報告をしながらご飯にすることに。
食べ終わると時差ボケからか眠くなり、気付いたら長い時間眠っていて…あっという間に次の日になっていた。
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