Chapitre1:出会い

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ドンドンドンドン!ドンドンドンドン!!

「ソイさん?居るんですよね?!何回でも来ますよ!?」

その日は、例の昨日来たヤクザの声で目が覚めた。

 

普通ならびっくりして飛び起きるとこだろうけど、姉さんは特に驚きもせずに眠っている。

いや、どういう神経なのと思いつつ、このままではダメだ。

今日はそのまま帰すわけにはいかないのだ。

そう思い、急いで起きて身だしなみを整えパッとドアを開ける。

 

「あ、おはようございます。」と私。

急に出たので少し驚いた男性は、小柄で訪問販売でもやっているかのような真面目そうな見た目の人だった。

 

「…あ、どうも。ソイさんはいらっしゃいますか?」と男性。

「あ、今ちょっと出かけていまして…。私ソイの友人で留守番していたのですが。」と言うことにしておく。

 

「そうなんですね。そうすれば、ソイさんにこちら渡していただけますかね?家賃の方ここ数か月滞納されてるんで」と昨日見たばかりの督促状を再び手渡される。

その場で開封すると、期限は1日短くあと2日以内だ。

 

そして、「あの、家賃なんですが今日中に私が責任もって入金しますので。」と伝える。

男性は、少し驚きながらも「そうですか…わかりました。それではよろしくお願いします。」そういって帰っていった。

 

部屋に戻ると、いつの間にか姉さんも目を覚ましたのか、タバコをふかしていた。

そんな姉さんに、これから着替えて入金しに行こうと提案する。

姉さんは、面倒くさそうに遠くを見つけていたけれどそれを制して「私が払うから」と言う。

 

姉さんは少し驚いて、「いや、mioは払わなくて良いから。」って。

いや、でも友達に払わせたくない気持ちはあるんだろうけれど、実際問題滞納してるってことはお金がないってことだよね。

だったら、私が払うしかないわけで。私じゃないなら他の誰が払うわけ?

「いや、2か月も姉さんちにお世話になるわけだから折半すればちょうど1か月分の家賃なるし。」そう言って姉さんを連れ出してATMへ行った。

 

記載されている番号を確かめながら無事入金すると、どこかホッとした。

姉さんは、「mioが払わなくても良いのに…ごめんね。」と言ってくれたけどさ。

姉さんにお金がないなら私が払うしかないし、そうでなくても私は姉さんに家賃だけじゃ足りないそれ以上のことをしてもらってきた。

 

だからむしろ足りないくらいなのだ。

これは本当に今でもずっと思っていることである。

___

日本に戻ったばかりの頃は、こうして初日から色々あってドタバタしたけれど。

姉さんは平日は学校、夜はスナックで働いていて学校に行かない日は私と遊んだり夜に呼び出されて外に飲みに行くこともあった。

 

姉さんは当時、年上の韓国人の男性コウさんと付き合っていた。

姉さんの周りも皆韓国人の友人ばかりだったので、よく韓国料理を食べに行ったり家で遊んだり隅田川の花火を見に行ったり…とにかくひたすら遊んだ。

 

手持ちのお金がいくらあっても足りないような状態だったので、私も気軽に出来るバイトを探して昼は丸ビルで書類の仕分け。

夜はスナックでバイトという日々を過ごした。

 

毎日働いてよく遊ぶ日々を繰り返し、日本での夏休みを満喫していた。

そんなある日、姉さんの元に一本の電話が入る。

姉さんには一人兄が居るのだが、その兄がルームシェアしてお世話になった先輩が日本に来るというのだ。

 

その先輩は、姉さんの兄とオーストラリアで知り合い仲良くなった。

オーストラリアでは一軒家を借りてシェアし、一緒に暮らしていたらしい。

そして、韓国に帰国する前にちょっと日本に滞在するということになったので日本を案内してあげてよ!ということで姉さんに連絡が行ったのだ。

 

姉さんは、「先輩が来たらmioにも紹介するから、一緒にご飯食べに行こうね!」

そんな風に話してくれていた。

そう、これが彼と私が出会う最初のきっかけだったんだ。

___

ねぇ、mio!こういうの着ていけば?

姉さんは私によく色々なものをくれた。

服やアクセ、マニキュア、化粧品…とにかくいろんなものをくれるのだが貸してもくれる。

 

そんな姉さんからよく服やバッグ、靴も借りていた。

だって姉さんってば、新しく服を買っても結局着ないでその辺に置いたままにして…買ったことすら忘れているものだって沢山ある。

そして、その日もTシャツにスカートというラフなスタイルだったけれど、スカートと小さなバッグは姉さんから借りることにした。

 

夜19時頃、姉さんと私は待ち合わせしていた新大久保の焼き肉店サンパに行く。

サンパは姉さんやその友達、彼とよく行っていた焼き肉屋でホールスタッフの一人は姉さんが日本語学校時代の知り合いでもある。

 

遅刻常習犯の姉さんと私は、約束より約20分遅れて登場。

「こんばんは~、mioです。」と軽く挨拶をしたら席につき、早速食べ始める。

彼の名前はジェリー。

 

ジェリーというのはもちろん韓国名ではなく英語名。

フランスでも、外国人がフランス名を使うことがよくある。

ただ、それはその国の言葉が発音しにくい、フランス人が読めないような名前の時に限るので発音しやすく読みやすい日本人でフランス名を使う人は皆無だった。

 

フランス名を使うのは中国人や韓国人が多かったから、英語でも同じ感じなのかなぁとふと思った。

彼は、ルームシェアをしている年下の男の子、日本語が堪能なホスさんと一緒に来ていた。

 

ご飯を食べ始めて一息つくと、姉さんが何やら韓国で話し始めた。

するとすぐに、私の方を向いてこう言った。

 

「ねぇ、mio。韓国ではね、女の人がタバコを吸うのは良くないの。

だから、吸う前に吸っても良いですか?って聞いてから吸うと良いと思う。」

と言いながら姉さんは自分のタバコに火をつける。

 

「そこでダメって言われたら吸わないの?」と私がいつものように屁理屈を始める。

普段なら「mio!そこはとりあえずハイって言っとくのよ!」と突っ込む姉さんだけど、この時はお酒が入って上機嫌だからか「いや、吸うけど笑」と笑って答える。

 

時々姉さんたちは会話を韓国語で楽しみ、日本語も交えながら話した。

ジェリーさんは日本語が話せないので時々英語を使ったり、姉さんやホスさんが通訳してくれた。

彼の第一印象は正直なところ「タイ人」だった。

 

それまでタイ人に会ったことがない私がタイ人と思うのもおかしな話だけど、少なくとも韓国人には見えなかったのだ。

私の友人の韓国人を見てみると、色白の人はあまりいない。

 

どちらかというと肌は浅黒いのだが、骨格がしっかりとしているわりに華奢なタイプが多い。

背もあまり高くなく、顔の彫も浅めだ。

が、彼に関してはかなりの色黒で顔の彫も深い。筋肉質でがっちりした体型だ。

 

なんとなく、東南アジア系なのかなぁと。

だから、当時タイ人に会ったことがなかったけれど自分の中で勝手にタイ人っぽいと思っていた。

 

彼は最初に韓国人と言わなければわからないくらいだったから、第一印象は不思議でしかなかった。

へぇ、こんな韓国人っぽくない人も居るんだぁと。

焼き肉を楽しみ、お酒を飲んで学校の話や海外の話をしていたらあっという間に時間が過ぎていった。

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