Chapitre2:ジェリーさんの経歴

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毎日よく働いてよく遊び、お酒にたばこにご飯に…という日々ももう2か月目。

夏休みも残り半分を切った。

 

そんなある日、ジェリーさんから「渡したいものがあるんだ」と一言。

次は何だろう?その頃になると、ジェリーさんのプレゼントにもだいぶ慣れてきた。

 

いつものように姉さんちにジェリーさんがやってくる。

メールではかろうじて翻訳機が使えているけれど、まだまだ会話は成り立たない。

ジェリーさんが来る度、姉さんは通訳する前にからかい始める。

 

これ、プレゼントだよと渡された紙袋はティファニーだった。

え?ティファニー?

そう思っていると、それを見た姉さんがすかさず

「私には?ねぇ、私にはないの?いつもmioばっかりでさ~」

とおどけて言う。

 

ジェリーさんはちょっと恥ずかしそうに、気まずそうにしてすぐに帰っていった。

早速開けて見ると、ティファニーの文字盤付きのネックレスだった。

当時私は20歳になったばかり。

ティファニーのアクセサリーをもらったのも初めてで単純にうれしかった。

 

それに、この頃になるとジェリーさんから色々な話を聞くことでなんだか少し自分が大人になったような気がして楽しかった。

ジェリーさんは私の10個上で、出会った時は29歳。

その1か月後に30歳になるところだった。

 

ジェリーさんは大学入学後、まもなくして兵役の為入隊した。

韓国では、19歳から29歳の成人男性は兵役の義務がある。

外国で生まれ育った人や身体的な理由などで免除される場合もあり、入隊する年齢も皆バラバラだ。

 

でも、通常は大学入学後に休学して入隊する。

入隊する時期は選べるが、ジェリーさんは大学入学後割とすぐに入隊した。

 

その理由は大学に入って生まれて初めて出来た彼女に浮気されたかららしい。

しかも、彼女に告白されて付き合うことになったのにジェリーさんの友人と浮気したのだとか。

 

傷ついたジェリーさんは逃げるように大学を離れ、入隊した。

「今は、昔と違って楽。」という前置きをしながら、入隊してからの苦労話を教えてくれた。

ジェリーさんが入隊した当初、韓国では尾崎豊の「I Love You」が流行っていた。

 

同じグループのリーダー格の先輩はとても暴力的な人で、尾崎豊の「I Love You」が聞きたいから歌えと真夜中に無理やり起こされることがあったらしい。

歌わないと、鼻血が出るまでよく殴られたと言っていた。

ジェリーさんだけではなく、軍隊でのリンチは日常茶飯事だと言っていた。

 

しかし、それ以上にジェリーさんを困らせたのは空腹だ。

当時は食糧制限がとても厳しく、三食食べても空腹で眠れない日が沢山あったそうだ。

 

ある時、あまりにもお腹が空いてどうにかなってしまいそうだと思った。

同じグループには、同じ大学の友人「ドンソン」が居た。

お腹が空いて眠れずにいたジェリーさんは、ドンソンに「もうお腹がすきすぎてどうにかなりそうだ。」と弱音を吐いた。

 

すると、ドンソンはそっとポケットから1個のパンを取り出した。

そして、「実は昼食のパンを食べずに1個残しておいたんだ。だから、半分にして一緒に食べよう。」と言って自分のパンを半分分けてくれたのだ。

 

自分も相当お腹が空いているはずなのに…それなのに自分に半分分けてくれるなんて…

そう思ったら、ポタポタと涙があふれて止まらなかったそう。

 

泣きながらドンソンがくれたパンを半分食べ、なんとか少しの空腹を満たすことが出来たんだって。

この時どれほどドンソンに感謝したことか、ドンソンは知らないだろうと言っていた。

それからずっと、ジェリーさんとドンソンは大親友だ。

 

でも、その話を聞いて今は楽なのは本当なのかな?そう思った。

実は私には、フランスのパリにも仲良しの韓国人の友人デヨンオッパが居る。

デヨンオッパからも以前、入隊時の話を聞いたことがあった。

 

デヨンオッパは、生まれは韓国ソウルだが小さい頃にフランスのナンシーに家族で引越した。

小さいころから中学生くらいまでをナンシーで過ごしたので、半分フランス人みたいなものだ。

 

でも、その後中学高校とソウルで過ごし大学に入ってから留学でフランスに行くことになった。

そんなデヨンオッパも、兵役の義務があったので大学入学後すぐに入隊した。

デヨンオッパは食事担当だったため、そこまで大変なことはなかったと言っていた。

 

しかし、兵役中にある事件が起こった。

兵役中にある二人が脱走しようと試みたのである。

真夜中にサイレンが鳴り響き、全員が叩き起こされ銃を構える。

銃口の先は…脱走中の壁をつたい逃げる二人。

 

指揮官の指示の元、一斉に脱走者めがけて引き金を引く。

脱走者はもうただの兵役中の人間ではない、売国奴なのだ。

銃撃を浴びた二人は壁から崩れ落ちるように、暗闇へと消えていった。

デヨンオッパは怖くて怖くて手が震えた…と言っていた。

 

数日後、韓国の新聞を見たデヨンオッパは驚愕した。

新聞の見出しには、デヨンオッパが居る施設のことが書かれてある。

問題はその内容だ。

 

そこには、兵役中の大学生2人が銃で自殺を図ったというものだった。

嘘だ…これは事実じゃない。

俺たちが殺したんだ…とデヨンオッパは悲しそうな目で言っていた。

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男性にしか知りえない世界。

海を挟んだ隣の国、近いようで遠い国のように感じる。

そんな国の人達と触れ合い、良くも悪くも新しい世界が広がっていった気がした。

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