Chapitre2:ジェリーさんの経歴6

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一通り考えてみての答えは…さっぱりわからなかった。

ジェリーさんの気持ちに一切気づかなかったわけではないと思う。

でもそれを考えようとせず、あえて気づかないふりをしてきたのかもしれない。

なぜなら、今のままで十分楽しかったからだ。

 

その楽しさを終わらせたくなくて、わざと考えなかったのかもしれない。

「んー、わかんない。」

私の答えを最初から知っていたかのように、うんうんと姉さんはまたタバコをふかしながらうなずく。

 

「えー、どうすれば良いんだろう?」

私は上に兄が2人いる、3兄妹の末っ子。

末っ子だからか、昔から自分よりも年上の人に何でも決めてもらってきた。

だからなのか、非常に決断力がない。これは人によるのかもしれないけど。

 

優柔不断で、どっちかすぐには決められない。

決める時はしっかり決めるのだが、基本的には決められないのだ。

食事で何が食べたいのか聞かれても、言われた人が一番困る「何でも良い」という答えを出してしまうタイプなのだ。

 

ジェリーさんのことに置き換えてみると、ジェリーさんのことは嫌いじゃない。

うん、それはもちろんだ。

みんなで一緒にワイワイ過ごすと楽しいよ。

でも2人っきりになったら?2人だと会話は出来ないよね?実際、私はジェリーさんのことそんな深くまで知らないし。

 

2人っきりで、1対1で話したことがないからだ。

ジェリーさんも同じはず。

私と2人で会話もしたことがないんだから、私の何を知ってて私の何が好きなのかさっぱりわからない。

そういった理由で言葉に詰まっていると、姉さんが一言。

 

「とりあえず、付き合ってみたら?」

なんとも軽い一言だ。

「何?そのとりあえずって?姉さんはいつもとりあえず付き合ってみてテキトーに別れんの?」

拍子抜けしてしまった。

「そういうわけじゃないんだけど、別に嫌いってわけじゃないなら付き合ってみて相手のことを知っていくっていうのも1つの手段かなって。」

 

「ジェリーさんね、mioのことすごく好きみたいだから大事にしてくれるんじゃないかなって思ってね。

それで、mioがイヤだったらその時は捨てちゃっても良いじゃん?」

と姉さんはふふっと笑う。

 

好きな女性にスパッと捨てられるなんて、男性もたまったもんじゃないよねと思ったけど、一歩踏み出してみても良いんじゃない?そうすれば想像してたよりももっと楽しい未来が待ってるかもよ?先にゴチャゴチャ考えずにさ。

という、姉さんなりの気遣いで背中をそっと押してくれたのかもしれない。

 

韓国人の気質なのか、おせっかいな姉さんは間髪入れずにすぐにジェリーさんにその場で電話をかけ始める。

「mioがジェリーさんとは会話が出来ないから困ってるよー?」と。

それは私が自分の口で言えばいいのに。

 

余計だなぁと思いながら、姉さんの会話を聴く。

食い入るように姉さんを見つめる私を横目で見ながら、姉さんは手短に電話を切って私に言う。

「ジェリーさん、これからmioに会いに来るって。」「え?今から来るの?」「うん」

と姉さん。

 

え~なんて言おう、なんて言おう。

急に来られても言うことがまとまらない!どうしよう。

そんな私の心の中を読み取るかのように、姉さんはこう言う。

「思ったこと伝えたら良いよ、とりあえず2人で会話するってことをしてみて。」

 

色々頭の中で駆け巡らせていると、ジェリーさんがやってきた。

ソイ姉さんと手短に話を済ませると、じゃあ行こうか、と姉さんちを出て歩き出す。

行き先は、西新宿にある中央公園だ。

姉さんちから歩いて15分くらいのところだ。

 

最初は黙ったまま歩き出す。

昼の暑さは和らいだとは言え、東京の夏は夜もじっとり肌にまとわりつくような暑さがある。

湿気でモワモワとした熱気に包まれているような感じだ。

ほんの少し歩いただけで汗ばむくらいだ。

 

公園までの道のりで、ポツリポツリ話し出す。

沈黙を切ったのは、ジェリーさんだ。「おれ、日本語の勉強頑張るよ。」

うん、頑張れ。でも今会話が出来ないという事実がある。

 

「いつ会話出来るようになる?」と私。「すぐ」とジェリーさん。

「それっていつ?」と聞くと、黙るジェリーさん。

後から考えれば私もひどい人だなと思った。

 

今日本語を頑張って勉強してる人に対して、いつ話せるようになるの?いつ日本語をちゃんと話せるの?って聞くなんて普通に失礼だったなと。

でもジェリーさんはあんまり学校に行ってないって聞いてたから、本当に日本語覚える気ある?という気持ちもあったのだ。

本当に、2人で会話出来る日なんて来るんだろうか?そんなことをふと思ってしまった。

 

それで、思ったことを言ってみた。

「ジェリーさんが私と付き合いたいのはさ、前の彼女と別れてしばらく経って彼女がいない寂しさから付き合いたいなと思ったんじゃないの?

だってさ、会話も出来ないならコミュニケーションも取れないし私のこともあんまり知らないと思うよ?」と。

 

さすがにわからないと思ったので、翻訳機に打ち込んで見せてみた。

すると、ジェリーさんは悲しそうに

「おれ、みじめだよ。」

とポツリ。

 

「mioはわからないと思うけど、おれはmioを見た時感じたことない気持ちを感じたんだ。

この気持ちは初めてだよ。

うまく言えないけど、初めて感じた」

と言う。

 

よくわからなかったけれど、ジェリーさんが言える精一杯のことを言ってくれたのだと思った。

だから、「そっか。わかった。」と言いソイ姉さんの家に帰ることにした。

玄関で送ってもらったら、じゃあまたねと言ってジェリーさんは帰っていった。

 

「どうだった?」私の顔を心配そうにのぞき込む姉さん。

「やっぱりさぁ、2人で会話するのはまだまだ難しいよね。

翻訳機ないと話せないし…もうちょっと時間が必要かなぁ。」と私。

 

でも、いつもふざけてるジェリーさんしか見たことなかったから、あんな悲しそうな顔初めて見たな…

と思いながら、タバコの煙で薄っすらガスがかかったように見える天井を眺めていた。

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