Chapitre3:急接近2

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今までは「皆で遊び」「買い物」「ご飯」「お茶」として出かけていたのが、付き合い始めてから、全ての外出が「デート」になった。

隣で歩いていると、コツン、コツンと手の甲が触れ合う。

 

軽くぶつかっては離れ、またぶつかっては離れる。

それを繰り返していると、そっと大きな手で私の手を取る。

2人で手をつないで歩いていると、小学生のようにヒューヒューとからかってくる姉さん。

 

いやいや、手つないだだけでそんなにからかう?

なんて姉さんに突っ込んでみたけれど、なんだかこっちもドキドキしてしまう。

付き合いたての頃はお互いぎこちないもんね。

 

手を握ることさえ一瞬ちゅうちょして、お互いの反応を見ながら少しずつ距離を詰めていく感じ。

もっと相手のことが知りたいのに、もっと触れたいのに、でもいきなりそんなことは出来なくて。

 

ちょっとずつ関係が進展していくのがなんとも歯がゆいというかむず痒いような感じがする。

それも付き合い始めの楽しみなのかもしれないけど、当の本人は実は胸いっぱいだったりする。

 

からかってくる姉さんはネタが沢山あって楽しそうだ。

姉さんの小さいころなんて知らないけど、今みたいにお調子者だったのかな。

 

いや、姉さんは大人しくってあんまり友達が居なかったと同じクラスの韓国人の子から聞いたことがあったっけ。

そこから姉さんの昔話が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。

 

姉さんは学生時代はいじめられていたと言っていた。

日本に来るまでは友達と出かけることも少なく、彼氏は1度だけできたけど、それも付きあってからすぐに入隊したからほとんど会っていなかったとか。

 

そんな話を聞いても、今の姉さんからは全く想像がつかないけれど。

日本で性格がガラリと変わったのか、本当の素の姉さんが出てきただけなのか?

 

いずれにせよ、面白くて力が強くて優しい姉さんが大好きだ。

そんなことを思っていたら、プルルルと電話が鳴る。

 

帰国後、東京に住む兄に買ってもらったプリペイド式の携帯を見ると、実家からの電話だ。

あ、もしもし?と早速出ると、父からだった。

 

「mio、いつ戻ってくる?

パリに戻る前に一度こっちに帰って来て、おばあちゃんにも顔を見せないと。」

そう言われてハッとした。

 

そうだ、そういえば帰国してからというもの、姉さんちで過ごし遊びほうける日々だった。

実家には行かないと思っていたわけではなく、すっかり忘れていた。

 

東京での生活があまりにも楽しくって、地元に帰る必要あるかな?と思ったほどだった。

でも、地元は地元で大切な友人が居るし、帰らなくちゃとすぐに思い直した。

 

じゃあ、明日明後日チケット取って帰るよ、と私。

そうか、じゃチケットが取れたら連絡してねと言われ電話を切った。

 

帰るとは言ったものの、実際帰るとなると面倒だな…と思えてきた。

帰るとしたら、バス。でもバスなら10時間くらいはかかる。

寝ていけばいいから良いんだけど、長旅になるなぁと。

チケット買うのも面倒だし。

 

帰ってこいって言われてるんだけど、帰んなくて良いかな?とふざけて姉さんに言ったら「両親が心配しているんだから帰りなよ!」と姉さん。

想像通りの返しにうなずきながら、だよね、と言う。

 

姉さんは両親や祖父母をとても大切にする。

それは、なにも姉さんだけではなく、韓国人ほぼ全員に当てはまることなんだけれど。

やっぱり儒教の国だからなのかな?

 

それは日本人の感覚からすると、崇拝とも思えるほど強烈なものであったりする。

悪く言うと、服従・支配とも言えるかもしれない。

 

うちの家族は仲が良いと思う。

何でも話すし、2人の兄も別に結婚とか考えていなくても、彼女ができたらとりあえず家族に紹介する。

 

私もそうだし、母とは特に仲が良い分時々ケンカもする。

もともと口が悪いのかもしれないけど、以前母親と口喧嘩になり、つい「もう、ママのバカ!」と言ったことがある。

 

そしたら、それを隣で聞いていた姉さんは思いっきり私の頭をはたいた。

「ちょっと!お母さんに向かってバカってどういうことよ!!」と話の内容も知らないのにこっぴどく怒られた。

 

言い訳しようと、「だって、」と言いかけたら「だってじゃない!言い訳しない!!」とまた叱られてしまった。

姉さんからしたら、ダメなものはダメなのだ。

それ以来、姉さんの前では両親との話し方には気をつけるようにしている。

 

次は頭をはたくだけじゃ済まないかもしれない、、

優しいけど厳しくもある姉さんなのだ。

特に、目上の人に対する礼儀に関してはものすごく厳しいのだ。

 

電話を終えると、「mio、実家に帰るの?」と少し寂しそうなゼリーさん。

うん、あと休みも残り10日くらしかないから一週間くらい帰ろうかなって。

で、その後また東京に戻ってパリに行くよ。

 

そっか、mioと居られる時間はもうあと少
しだね…とゼリーさん。

そうだ、数えてみれば、もう1カ月半以上も東京に居るんだ。

長いようで短い、あっという間だったな。

 

その間にゼリーさんと出会い、付き合うことになり、そしてもうすぐ離れ離れになるのか…

短い間に色々あったんだなと、今になって思う。

 

そう考えたら、残り少ない日数がとても愛おしく思えてきた。

もうそろそろ、この楽しいひと時が夏休みと一緒に終わりを迎えようとしている。

 

姉さんとゼリーさん、私の3人で歩いて新大久保の韓国料理屋さんへ。

チムタッを頼み、3人でモリモリ食べる。

お勘定はいつもゼリーさん。

 

は~お腹いっぱい!

満足して店を出たら、帰り道にあるカフェ、ロッジに寄る。

そこでコーヒーやケーキを買って、姉さんちに帰る。これがうちらのルーティンだ。

 

あ~この日常がもうすぐ終わるなんて信じられない、もっとここに居たい!

もっとずっとこうして居たい!!こんなささやかな私の願いが、叶えば良いのに。

こんな風に思うほど、東京での滞在が私にとっては至福のひと時となっていた。

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