Chapitre2:ジェリーさんの経歴4

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私の左腕にはタトゥーがある。

18歳の冬に始めて左手首にカラスを彫った。

なぜカラスを彫ったのかと言うと、昔好きだった漫画の影響がある。

 

私の中学・高校時代に欠かせなかった大好きな漫画クローズ。

たまたま兄にこれ読んだらと勧められたのがきっかけだったけど、学校の教科書よりも大切なことを学んだ漫画だったと思う。

内容は喧嘩とか不良少年の日常という感じだけれど、そこには兄弟愛とか家族愛とか友情がぎっしり詰まっていてその愛情がひしひしと伝わってくる。

 

一見、悪いことばかりしているように思うけれど実は悪いことは悪い、という善悪の区別もしっかり表現している良い本なのだ。

クローズは英語でカラスたちという意味だ。カラスは存在感があって身近な存在だけど忌み嫌われる。

その存在にあえてスポットを当てた漫画だ。

 

私も、そんなカラスの様に忌み嫌われようが自分らしく強く生きたい、そう思ったのだ。その気持ちを忘れないために、カラスを彫った。

忘れたくないことは忘れないように覚えておけばよい、わざわざ彫る必要なんてない、そう言われたことがある。

 

でも、覚えておきたくてもあっという間に忘れてしまうことの方が多んじゃないかな。

人間の脳はそんなに賢くない。

優秀だけど完ぺきではないから、忘れたくなくても忘れてしまうものなのだ。

だから、何かを一生忘れないようにするというのは不可能だと思っている。

 

人間の長所と短所には共通していることがある。

それは、忘れることだ。

人は忘れることが出来るから、また前を向いて歩いて行ける。

 

でも、忘れてしまうからまた同じ過ちを繰り返してしまうこともある。

これが痛いほどよくわかる私は、あえて体に彫るという選択をしたのだ。

忘れないために。

 

そんなことを思いながら、3度目のタトゥーを彫りに行く。

昨年は、夏に帰国した時にカラスの上の方に和柄を入れてもらった。

桜のような花だ。

今回は菊など他の花も入れてもっと賑やか、かつ華やかにしてもらう。

 

予約していた時間に間に合わせるつもりで用意していたのだが…

電車に乗り遅れ30分ほど遅れてタトゥースタジオに行く。

事前に遅れることは連絡済みだが…やってしまった。

新宿から乗って渋谷で降り、早歩きで交差点を歩いていると私と同じスピードで歩く人が居た。

 

ふと、隣を見ると「え!mio!」と言われびっくりした。

友人のスミカである。

実はスミカはパリに留学した同級生なのだ。学年は私の一個下になるのだが、年齢は同じ。

パリで下級生として入って来て仲良くしていた。

 

スミカはほんの少しパリに滞在したのちすぐに東京の学校に戻ってしまったので、今はそのまま東京の学校に通っている。

パリではよく観光地に一緒に行ったし、自宅でホームパーティーもやった仲だ。

日本に戻ってからは、東京湾の花火大会に行ったりと定期的に会っている。

 

そんなスミカに偶然会い、

「あれ?スミカ今日はどっかお出かけ?」

と聞くと、なんとこれからタトゥーを入れに行くというのだ。

ちなみにそのタトゥースタジオって….そう、まさかの同じタトゥースタジオだった。

 

実は、スミカが連絡した時は私が予約していたために施術は無理そうだと言われたらしい。

だが、予約している人(私)が遅れるということで30分空きが出来たので施術できると急遽言われ、急いでいくところだったのだ。なんという偶然。

そして世間って意外と狭いんだと思った。

 

話ながら一緒に、タトゥースタジオに入る。

スミカが先に施術。

スミカは謎の英数字を下唇の内側に入れた。ブラック&グレイだが、紫っぽい色に見えた。

口は傷の治りが早いというが、他の部位に比べると確かに出血が全然ないなと思った。

 

スミカは短い英数字を掘るだけだったのですぐに終わり、また遊ぼうねと話してタトゥースタジオを後にした。

続いて私の番。

柄を書いてから、その上をなぞるようにして針が突き刺さる。

痛みはあんまり感じない。

 

いや、痛いかと聞かれれば少し痛い。

でも、何と言うか心地よい痛みの範囲だ。

おかしな話かもしれないけれど、なぜタトゥーが好きなのかと聞かれたら…それは多分生きてる実感がするからだ。

普段、生きている感覚を実感することなんてほとんどない。

 

昔の時代、食べるものに困るような時代では皆んな生きることに必死だったから、どんな人も常に生きている感覚はあったと思うしそういうことすら考える暇もなかったと思う。生きることに精いっぱいで。

でも、今の時代は頑張って生きなくても生きていける。

むしろ生かされてる。

私たちは生きている実感を奪われた肉体たちなのだ。

 

だから、痛みを感じて血を流す自分を見て生きている感覚を取り戻すのが心地よいと感じる時がある。

ただ単に自分を傷つけることで生きる実感を感じるわけではなくて、忘れたくないことを体に刻む代償として痛みを感じることで生きる実感を感じるというか。

 

施術が終わったら軟膏を付けてラップを巻き、軽くテーピングしたら終わり。

あとは、清潔にして乾かしてかさぶたが出来る。

そしてそれが綺麗に剥がれ落ちる頃には、タトゥーも完成だ。

 

ちなみに、お酒を飲むと色が飛ぶと言われていて、汗をかきやすい夏場もは冬と比べると色が抜けやすい気がする。

この日の夜は、ジェリーさんとソイ姉さんとホスさんの4人でまたサンパに行くことになった。

 

この日タトゥーを入れたばかりの私は、腕にテーピングをしたまま露出した状態でみんなに会った。

ジェリーさんは、私の腕を見て言った。俺も背中にタトゥーあるよ。と。

見せてもらうと、そこにはTHE CHEF(料理人)の文字があった。

オーストラリアで入れてもらったらしい。

 

料理人かぁ…ジェリーさんもきっと、料理人になろうと思った時の気持ちを忘れないためにタトゥーを入れたんじゃないかな。

本当のところはどうかわからないけれど、なんとなくそう思った。

 

オーストラリアでは、タトゥーを入れている人がすごく多いという話になった。

イギリス人は特にタトゥーを入れている人が多いけど、オーストラリアにはイギリス人沢山来るでしょ?

 

だからタトゥー入れている人が多いんだよ、と。

自分の周りには数人タトゥーを入れている人が居るけれど、そう多くはない。

だからジェリーさんもタトゥーを入れていると知った時、ここでも親近感がわいた瞬間だった。

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